林業といえば木こりでしょ?
でも…
・「そもそも誰の山を伐ってるの?」
・「どんな山を何の目的で伐ってるの?」
・「何を根拠にして伐ってるの?」
・「伐採はどうやって進めてるの?」
・「伐採にはどういう手続きがいるの?」
などなど、未知の世界なのではないでしょうか?
じつは林業には営業•森林調査•設計•管理•事務等を行う専門家がいます。裏方•森林施業プランナー•事務方•森林調査員•段取り屋など、呼び名はいろいろありますが、概ねを1人で行い、木こりのマネージャーのような役割を果たします。
なぜなら林業は手続きが多く、事前の準備が非常に重要です。
私は林業の裏方に17年程度携わっており、国内4箇所の林業事業体で働いてきた。林業は土地に根ざした仕事であり、地域によって違いはあるが、本質的に仕事内容は同じです。
この記事では、林業の裏方の仕事内容について解説しています。
この記事は、主に以下の人々に役立つ知識になります。
・林業の裏方(森林施業プランナー•事務方•森林調査員)の新人
・林業への就業•転職を考えている人
・山•林業の関係者または利用者 〜森林所有者、登山者、山菜採り、猟師、渓流釣り人など〜
結論、林業の主役は木こりであるが、脇役である裏方(営業•森林調査•設計•管理•事務)の仕事を知ることで、林業全体が分かります。
林業の裏方は山にくわしい人
山にくわしい人って、木こり?森林所有者?地方自治体の林務担当者?林業会社•森林組合の人?もちろん全員正解です。しかし最近は山に興味のある森林所有者や、知識のある地方自治体の林務担当が少なくなっています。
そんな中、毎日のように山に入って、多くの山の関係者と会ってる人といえば、林業会社の社長や社員、森林組合の職員です。森林組合では森林整備課などに専門職がいますが、林業会社では現場作業も並行してやる事もあります。中には社長が1人で、営業•森林調査•設計•管理•事務•現場作業を行う鬼会社も……
会社の規模にもよるので何とも言えませんし、裏方とはどこにいて何を指しているのか明確にはなっていません。しかし、営業•森林調査•設計•管理•事務が概ね1人でできる人間を裏方と呼ぶことにします。
林業の仕事内容
まず予備知識として、林業の仕事内容をさらっとおさらいします。
林業は50~60年のサイクルで循環しています。
他にも枝打ち等があり、1年間通して仕事を行っていきます。
また林業と呼べるか分からないですが、危険木を専門に伐る特殊伐採や、竹林の伐採、広葉樹の伐採、さらには庭木の剪定や街の草刈りなど、林業関係者は活動の場を広げています。
林業の仕事内容について詳しく知りたい方は⬇︎
林業の裏方の仕事内容
「林業の仕事内容」で述べた内容を実質的に行っていくのは木こりです。そしてその段取りをするのが裏方の役割です。
では、記事冒頭の疑問に戻ります。ここでは質問に沿って伐採を例に挙げます。
そもそも誰の山を伐ってるの?
言い換えると、
誰が森林所有者に交渉しているの?
これが、
営業
の仕事になります。
森林所有者から依頼がある場合
・「自分の山がどういう状況か知りたい」
・「皆伐に備えて山づくりをしておきたい」
・「土砂災害が怖いので山を整備しておきたい」
・「山をお金にしたい」
などの依頼があれば、依頼者の山に関する悩みを聞き、今後の方向性を一緒に決める仕事になります。
森林所有者へ新規営業する場合
・「隣の山を伐採するとき」
・「別の山を調査してたら、荒廃した山を見つけたとき」
・「伐採適齢期であるとき」
などがあれば、所有林に対する意向調査と林業の仕事内容の提案をする仕事になります。
いずれの場合も森林調査の許可をいただき、調査結果の報告として、見積書•作業計画を提示し契約という流れになります。
また森林所有者以外にも、国•地方自治体、地域の方、作業実行に不可欠となる土地•道の所有者、協力業者など交渉相手は多いです。
例:森林所有者から依頼があった山を調査•報告し、間伐の契約をしたが、道の使用の為〇〇市町村に交渉に行き、木材置場に地域の方の土地を借りたいので〇〇さんに交渉し、間伐作業の一部を委託したいので〇〇林業会社に交渉に行き、木材を買い取って欲しいので〇〇市場に交渉に行きます。
どんな山を何の目的で伐ってるの?
言い換えると、
この山に手を入れる必要があるのか?また可能なのか?
これが、
森林調査
の仕事になります。
大きく4つに分けて説明します。
境界調査
森林調査•作業の範囲を知るために、境界線を見つける仕事になります。
理想は、森林所有者が境界線まで案内してくれて、境界杭の位置を教えてもらうこと。しかし現実は、図面を頼りに、地域の人に聞きまくり、山を歩き回り境界杭•境界線を探します。
立木調査
山の現況を知り、作業内容を決めるために、立木の調査を行う仕事になります。
具体的には、樹種(スギ•ヒノキ等)、林齢(木の年齢)、樹高(木の高さ)、胸高直径(人の胸辺りでの木の直径)、木の本数(100㎡に何本生えてるか)、木の良し悪し(木の曲がり•傷•割れ•腐り•今後の成長具合)を、林内で数カ所抽出して調査します。
道と地形の調査
道と地形の現況を知り、作業内容•方法が可能かを調査する仕事になります。
道に関しては、誰の所有で、延長は何mで、幅は何mで、どんな車•林業機械が走れて、どんな補修をしなければ通れないかを調査します。地形に関しては、傾斜は急•緩やか、地質は柔らかい•硬い、水脈の位置、障害物の位置を調査します。
測量
作業範囲の面積を知る為に、測量をする仕事になります。
具体的には、測量機器を使って2人1組で山の境界を歩いて面積を確定します。
これら4つを行うことで、作業の範囲、面積、作業内容、作業方法の根拠となるデータが入手でき、山の現況と大まかな目的も見えてきます。
例:立木調査の結果、林内の立木本数は密であり間伐が必要です。境界調査で境界線が分かり、他者の山を間違って伐ることはない。道と地形の調査でトラック•林業機械が侵入でき、木材搬出ができることが分かった。測量で正しい作業面積が分かった。
何を根拠にして伐ってるの?
言い換えると、
目的を具体化するための計画はあるのか?
これが、
設計
の仕事になります。
関係者に説明するために、見積書•作業計画を作成する仕事になります。
営業と森林調査の結果によって、作業内容と作業方法が大まかに見えました。ここからは見積書•作業計画の作成によって、山がよくなるのか?収益化は可能なのか?という目的を具体化させます。
山の例:(現況)〇〇年生のスギ林は、樹高•直径から順調に成長しているが、密度がやや混んでいて林内は暗く、曲がり木が真直ぐな木の成長を邪魔している。よって、(計画)間伐をすれば、(目的)林内が明るくなり、真直ぐな木をさらに成長させる事ができる。
収益化の例:(現況)〇〇haのスギ林で、樹高〇〇m•直径〇〇cm•密度〇〇〇〇本/haの山を、(計画)〇〇%間伐すると〇〇㎥の木材が搬出できるから、収入は〇〇〇〇〇〇円になる。(現況)既設道は〇〇tトラックが侵入でき、現場の傾斜は〇〇度で、地質は〇〇で、水脈•障害物の位置から〇〇機械が侵入できるので、作業道が開設でき、搬出間伐ができる。(計画)搬出間伐をするなら〇〇班が、〇〇機械を使って、〇〇の手順で行えば、経費は〇〇〇〇〇〇円になる。よって、(目的)森林所有者に〇〇〇〇〇〇円支払いができ、自社も〇〇〇〇〇〇円の黒字になる。
伐採はどうやって進めてるの?
言い換えると、
伐採は契約•設計通りに行われているか?
これが
管理
の仕事になります。
現場監督として、契約•設計を遵守しつつ、変化に対応し、関係者との調整を行いながら作業完了を目指す仕事になります。
具体的には、作業計画図•現場管理表を使って現場を管理し、作業指示書•進捗管理表を使って木こりを管理し、現場関係者リストを使って、関係者との調整を行います。
例:伐採作業前に木こりの班長を現場案内•指示し、現場の準備をし、関係者に挨拶をします。伐採作業期間中は、現場の状況を把握し、班の進捗管理をしながら、トラブルが発生したら対処します。伐採作業後は現場の仕上がりを確認し、後片付けをして、関係者に挨拶をします。
伐採にはどういう手続きがいるの?
言い換えると、
どんな時にどんな書類を作成•提示•提出すればいいの?
これが、
事務
の仕事になります。
国•地方自治体、森林所有者、その他関係者への書類を作成する仕事になります。
具体的には、届出書•申請書•契約書•精算書•支払い書類を作成します。
例:森林所有者と〇〇契約を結んだら、伐採作業前に市町村に〇〇届を出し、都道府県に〇〇許可申請書を出し、許可が下りたら、業者や関係者と〇〇契約を結び、伐採作業が終わったら、市町村•都道府県に〇〇届を出し、都道府県に〇〇補助金申請書を出し、森林所有者に精算書を出し、業者•関係者に支払いをします。
これら5つ(1.営業・2.森林調査・3.設計・4.現場管理・5.事務)が裏方の主な役割と言えます。1〜5と番号を振りましたが、実際は同時並行で行い、すべてが連携しています。
これら一つ一つを具体的に知りたい方は、実際の1日の仕事風景を踏まえた記事があるのでこちら⬇︎
裏方の1日(切捨間伐•搬出間伐•皆伐編) 〜営業•森林調査•設計•管理•事務を実践する全10話の物語〜 林業の裏方が実践!営業の1日(山を見て欲しいって依頼があったら?) 林業の裏方が実践!営業の1日(ご新規様に営業!) 林業の裏方が実践!森林調査の1日 (山の境界ってどこ?) 林業の裏方が実践!森林調査の1日 (木を知り森を知る!) 林業の裏方が実践!森林調査の1日 (道と地形を記憶する!) 林業の裏方が実践!設計の1日 (目的を具体化する計画?) 林業の裏方が実践!営業の1日(いろんな関係者に交渉!) 林業の裏方が実践!森林調査の1日 (面積を測る!) 林業の裏方が実践!管理の1日 (現場監督って何者?) 林業の裏方が実践!事務の1日(書類はタイミング!)
まとめ
林業の裏方の仕事について、多少はご理解いただけたでしょうか?
林業の裏方の仕事内容は次!
営業 依頼者の山に関する悩みを聞き、今後の方向性を一緒に決める仕事 所有林に対する意向調査と林業の仕事内容の提案をする仕事 森林調査 作業の範囲を知る為に、境界線を見つける仕事 山の現況を知り、作業内容を決める為に、立木の調査を行う仕事 道と地形の現況を知り、作業内容•方法が可能かを調査する仕事 作業範囲の面積を知る為に、測量をする仕事 設計 関係者に説明するために、見積書•作業計画を作成する仕事 管理 現場監督として、契約•設計を遵守しつつ、変化に対応し、関係者との調整を行いながら作業完了を目指す仕事 事務 国•地方自治体•森林所有者•その他関係者への書類を作成する仕事
このように林業の裏方は、理想の山を作るためのマルチプレイヤーなのです!
大変な仕事であることは事実です。
現場責任者は色々言われ、苦悩で眉間にシワがよる事もあるでしょう……
しかし、3次元の山を2次元の資料•書類に落とし込み、人に伝えていくことは、プロにしか出来ない最高に面白い仕事です!多くの人々と関係を持ちながら、決して主役ではない裏方は、影の立役者と言えるでしょう。
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