林業と気象災害(土砂災害•倒木を予防し対処する!)

林業×気象災害 基本編
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  • 「何だ、この暴風雨は!」
  • 「天気予報見てきたのに!」
  • 「現場の山が崩れた!」
  • 「早めに手を打っておけばよかった…」

じつは林業をやっていると、年に数回は土砂災害•倒木の被害に遭います。

未手入れの山は土砂災害•倒木被害に遭いやすい。そんな山に手を入れるとさらに被害に遭いやすい。だが、本当に災害に強い山は、手を入れて森が成長する3〜5年の不安定状態の先にあるのです。

自己紹介

私は林業の裏方(営業•森林調査•設計•管理•事務)に17年程度携わっており、関東〜九州の4箇所の林業事業体で働いてきました。また林業のかたわら気象学の学校に1年間通いました。{気象予報士資格は学科試験(一般知識•専門知識)は合格したものの実技試験で2度落ち持ってません…}

この記事では、林業と気象災害について解説しています。具体的には、

  • 土砂災害•倒木の原因•種類
  • 土砂災害•倒木を山で予測、林業で対策
  • 災害にあった場合どう復旧するか

という内容になっています。
※筆者は日本海側での林業経験がないため雪による被害は割愛します。

この記事を読むことで、土砂災害•倒木などから森林•林業現場を守ることができるようになります。

この記事が役立つ読者

林業の関係者
(林業の裏方、現場作業員、森林所有者等)
山の利用者
(登山者、山菜採り、猟師、渓流釣り人等)
林業への就業•転職を考えている人

土砂災害•倒木の原因•種類

台風の衛星写真

土砂災害の原因
台風、発達した低気圧(南岸低気圧•日本海低気圧•二つ玉低気圧等)、梅雨前線が停滞し全線が活発、積乱雲等による大雨集中豪雨※ここでは触れないが地震•火山による影響も大きい。

土砂災害の種類
山くずれ
山の斜面が突然くずれ落ちる現象。
表層崩壊(土壌のみ崩れる)と深層崩壊(土壌の下の岩盤ごと崩れる)がある。
地すべり
緩傾斜地(5〜20°程度)が、地下水などの原因で、広い範囲でゆっくりと滑り落ちていく現象。一気に動くこともある。
土石流
山腹や川底の石や土砂が一気に下流へと押し流される現象。

倒木の原因
台風、発達した低気圧(南岸低気圧•日本海低気圧•二つ玉低気圧等)、強い冬型の気圧配置、積乱雲等による強風。数本の倒木はどこの山でもありますが、ここで言うのは数十本〜数百本単位の倒木です。

倒木の種類
幹折れ
立木の幹から折れる現象。
根返り
立木が根から倒れる現象。

倒木には至らなくても枝折れ、傾木等もある。

林業現場における土砂災害•倒木の予測と対策

目に見えて災害が起きていれば、そこが危険なことは明かである。しかし現状異常がなくても、

  • 災害の予兆を示す特徴
  • 林業活動の結果、災害が発生する可能性

もあります。山を注意深く観察し災害を予防する必要があります。

土砂災害を山で予測、林業で対策

土砂災害の写真

土砂災害の原因は大雨•集中豪雨であると言いました。本来、森林に降った雨は、森林の枝葉•下層植生•落葉に当たり威力を弱め、土壌にゆっくり染み込み、土壌の中の斜面を流れ、谷に集まります。また道があれば道を流れます。

すなわち山の調査のポイント

  • 下層植生
  • 土壌
  • 斜面

になります。

山の調査から土砂災害の痕跡•予兆を探し、林業活動が可能か否か、可能であればどう作業するかを判断します。

下層植生を見る
下層植生は多いほど、土壌を作り、根が土壌を繋ぎ止め、雨のクッションになります。

  • 下草がまったく生えていない
林業の対策

地表に光を入っていないことが原因なので、間伐を行う。

土壌を見る
土壌は地質(岩盤•地層)の上にある厚さ0.5~2mの表土層のことであり、スポンジのように雨を吸収します。土質を調べ判断します。

  • 砂質で粘性の乏しい土(まさ土、山砂、しらす等)
  • 粘土化した土(ローム、粘性土)
  • もろく崩れやすい岩石がある
林業の対策

砂質は保水性がなく、粘性土は透湿性がなく、いずれも侵食を受けやすいです。上記土質は、作業道開設によって土砂災害の決定打になることがあります。どうしても開設が必要であれば、路網密度を小さくし、幅員を狭くし、必要箇所には構造物を設置する必要があります。また強度な伐採(伐採率40%以上)を控えることも必要です。

斜面を見る
基本、森林は斜面にあり、急なほど雨が表面を流れやすいです。

  • 過去に山くずれ•地すべり•土石流があった
  • 山の斜面に亀裂•断層がある
  • 落石が多い
  • 急傾斜(35°以上)
  • 立木の根付近が曲がっている
  • わき水や地下水がある
林業の対策

過去の災害跡地は繰り返す可能性があります。亀裂•断層は山くずれ•地すべりの兆候あり。落石が多い・急傾斜地は山くずれの可能性あり。立木の根曲りは地すべりの可能性あり。上記条件での搬出間伐•皆伐はリスクを伴います。部分的被害なら対象箇所を除き林業活動を行いましょう。わき水•地下水が分かっているなら作業道は迂回して開設します。とはいえ掘削中に突然湧き出し斜面•作業道をじわじわ崩壊させることも多いです。その場合は側溝等を設置し対処しましょう。

谷(沢)を見る
谷は普段から水が集まる場所であり、最も土砂災害の特徴が現れやすいです。

  • 急で土砂や大きい石がある
  • 上流で山くずれが発生している
林業の対策

土石流の可能性あり。近くを作業する場合は谷(沢)に枝葉や伐採木の残材を置かないようにしましょう。水の流れを変え土壌侵食の原因になります。

道を見る
雨水が最も流れやすいのが道です。上方に遮るものがないため雨がダイレクトにあたり、水の通り道になります。排水が適切でないと大量の水が下方に押し寄せ、道のカーブで溢れ出し土地を侵食します。

  • 上方から土砂が流れて堆積している
  • 路肩が崩壊している
  • 道にクラック(亀裂)がある
  • 排水施設(側溝•排水管•横断溝)の破損、詰まり
林業の対策

林業で最も多い災害が道の崩壊である。道への土砂堆積は容易に除去できるが、路肩崩壊•クラックは通行するべきではありません。復旧は土木業者によって行うか、迂回路を新しく作るしかありません。排水の確認を普段から弱雨の時に行い、オーバーフローの原因になっている排水施設(側溝•排水管•横断溝)の破損の修復、詰まりの除去を行う必要があります。また、災害の危険が迫っている時は、林業機械を道の安全な箇所(尾根付近•緩傾斜地)に移動させ、それでも危険なら事務所まで運びましょう。

土砂災害発生の可能性の高い、またはすでに発生している地域は、砂防指定地、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域等に指定されていることが多いです。林業関係者は森林簿、それ以外の方は都道府県窓口で確認できます。自治体によってはインターネットで公表しているところもあるので検索してみましょう。

倒木を山で予測、林業で対策

倒木の写真

倒木の原因は強風であると言いました。本来、風は地形に沿って吹き、森林全体にあたり、森林の中を吹き抜けていきます。

すなわち山の調査のポイント

  • 地形
  • 森林全体
  • 立木

になります。

山の調査から倒木の痕跡•予兆を探し、林業活動が可能か否か、可能であればどう作業するかを判断します。

地形を見る
風は上空ほど強く、遮るものがないほど強く、急に狭くなればそこに集まります。

  • 南東向きの山
  • 尾根付近、尾根の鞍部
  • 表土が浅い
林業の対策

林業活動の判断自体が難しいですが、斜面が南東向きであると台風の風を正面から受けます。上空に近い尾根付近や風の集まりやすい鞍部も被害に遭いやすいです。また表土が浅いと立木の根が張れないので倒れやすいです。上記条件がそろっていたら強度な間伐(伐採率40%以上)を控えましょう。

森林全体を見る
複雑な地形になると、どこが風が強いのかわかりません。そういう時は森林全体から痕跡を見つけます。また、痕跡がなくても森林自体が弱いと強風の影響を受けやすくなります。

  • 既に大規模な倒木被害がある
  • 根返りの倒木が多い
  • 傾木が多い
  • 森林密度が密か粗である
林業の対策

倒木発生地は繰り返し被害を受ける特徴があるので、林業活動は控えます。根返りの被害は土壌が弱くなっている時に起きやすく、強風以外に大雨も要因にあることが多い。人工林の森林密度は混みすぎても根が張らず成長しないが、間伐をして立木の密度を小さくしても風が通りやすくなり災害に遭いやすくなります。強度の間伐(伐採率40%以上)は控え、境界の木を残します(作業範囲の周囲の木を1〜2列伐らずに残し、壁のような役割を果たさせる)。
森林密度の例:スギを3,000本/ha 植林した場合→ 10~20年生2,500本/ha → 20~30年生2,000〜2,500本/ha → 30~40年生1,500〜2,000本/ha、40年生以上1,000〜1,500本/ha が適正。

立木を見る
一本づつの立木の状態を見ます。

  • モメ(※)と呼ばれる横線がある
  • 枝が折れている
  • 幹折れの木がある
  • 内部が腐っている
  • 林齢の割に木の細く枝が上にしかない

(※)過去に大きく揺らされて木繊維が切断した状態

林業の対策

モメ、枝折れ、幹折れは既に強風が吹いた痕跡です。幹折れの木の原因は内部の腐りか土壌凍結です。立木を硬いもので叩いてみて中が空洞でないか確認しましょう。また未手入れの山の対策としては樹冠を整える(風で揺られる時に、立木同士の枝葉が当たる)ように伐ります。立木は頭(枝葉がついている場所より上)が重いです。いずれも強度の間伐(伐採率40%以上)は控えましょう。

参考:「写真でみる 林木の気象害と判定法」国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 

土砂災害•倒木にあったら連絡•待機•復旧

土木工事の写真

どんなに注意しても自然には敵いません。作業道崩壊、土砂災害、倒木被害は必ずやってきます。

関係者に連絡
まずは会社に連絡し他人の意見を聞きましょう。一人で考え込むと病みます。
土砂災害•倒木が重大であれば林業現場の所有者に連絡。
他人の土地(車道•建物•畑•田等)に影響していれば所有者(個人•地方自治体)や利用者(地域住民等)に連絡。
原因が林業現場でなくても発見者は連絡しましょう。放置すればクレームになります。

落ち着くまで待つ
逆にすぐ復旧するのも危険です。軽微なものであれば構いませんが、大雨があった場合、数日後に土砂災害が発生することもよくあります。この間に原因と復旧方法を考えましょう。

原因を調べる
「排水を行なっていなかった」•「強度に間伐しすぎた」等、林業事業体に原因がある場合もありますが、「記録的大雨」•「猛烈な台風」•「隣の山の土砂災害に巻き込まれた」等、防ぎきれないものもあります。

原因箇所と災害箇所が違う場合、災害箇所のみ工事をしても意味がない。
現実、以下のような工事をよく見かけます!
例:市道の排水管が詰まり、雨水が林業現場に流入し山くずれが発生。くずれた山を復旧。
すなわち、林業現場の山くずれ(災害箇所)を復旧しても、市道の排水管の詰まり(原因箇所)を復旧しなければ、次の大雨でまた崩れます。ほとんどの土砂災害は複数地番•複数人にまたがるので、責任の所在が曖昧になります。原因究明はしっかり行わないと、ほぼほぼ林業現場のせいになります。
とはいえ、原因が他人の土地であると分かっても林業家は協力しましょう。

復旧方法を考える
必要な人員、機械、資材、自社で可能か、他人の土地であれば許可、公有地であれば届出•申請等を行う。作業道崩壊•土砂災害の復旧は土砂の撤去、排水施設の設置、土留め工事等になります。倒木の復旧は皆伐になります。

復旧
原因が分かり山が落ち着いたら復旧を始めます。基本的には現場作業員を総動員し早急に行います。
終われば早急に関係者に連絡しましょう。

まとめ

最後に筆者の関わった土砂災害。
※倒木は復旧の経験があるが、担当現場が被害にあった経験はない。

被害の概要

皆伐作業中に猛烈な台風が直撃。作業道を土砂が流れ路面の表土層崩壊、下の林道に土砂流入し路肩崩壊、その下の用水路に土砂流入し用水路埋没。

台風接近の1~3日前
作業道に水切りを数カ所設置、近くの沢に雨水を誘導するよう掘削を行い、林道脇の立木に丸太を横づみし用水路への土砂流入を防止した。

台風通過翌日
被害を確認。会社•林業現場所有者に一報、自治会長に連絡し情報を共有、市の用水路担当と林道担当に連絡•打ち合わせ。会社で復旧方法を検討。

台風通過2日目
林道に流入した土砂を重機で撤去。普通車の通行は可能。

台風通過3〜4日目
用水路に流入した土砂を小型ユンボと人力で撤去。水が流れるのを確認。

台風通過5日目
林道に採石敷き、整地。路肩崩壊を地元建設業者に委託、大型土のうを積んで土留め。中型トラックの通行可能。

台風通過6日目
林業現場の作業道を修復、排水施設を再度作成。通常作業開始。

今回は猛烈な台風であったこと、地域住民の要望による作業であったため、林業現場責任者の責任追求はなかったが、一度災害に遭えば多大な時間•お金•労力を要します。なるべく被害は最小限にするよう普段から考える必要があります。

土砂災害•倒木の原因と種類は以下のとおり。

土砂災害の原因大雨•集中豪雨
土砂災害の種類山くずれ•地すべり•土石流
倒木の原因強風•大雨を伴う強風
倒木の種類幹折れ•根返り

林業現場での土砂災害•倒木の予測と対策は以下のとおり。

土砂災害の調査のポイント
下層植生がなければ間伐。
土壌が雨に弱ければ作業道開設•強度な伐採を控える。
斜面に災害の痕跡があり、急斜面であれば搬出間伐•皆伐を控える。
には枝葉•伐採木の残材を置かない。
の崩壊は復旧か迂回。常に水の流れ方を見て排水を行う。

倒木の調査のポイント
地形•森林•立木が風の影響を受けやすければ、強度な間伐は控え、境界の木を残す、樹冠を整える。

林業現場が土砂災害•倒木にあったら以下のとおり。

他人の意見を聞く
会社、林業現場の所有者、影響した他人の土地の所有者または利用者。
すぐに復旧しない
原因と復旧方法を考える。
原因箇所と災害箇所が違う場合、災害箇所だけでなく原因箇所も復旧する。
原因が分かり山が落ち着いたら復旧
早急に行い、関係者に連絡。

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