- 「林業って誰に営業してるの?」
- 「山を間伐しませんか?」って営業が来た!
- 「新規営業が苦手だ!」
じつは、林業にも新規営業があります。なぜなら、日本の森林の約6割を持つ個人・企業ですが、林業に興味がない方がほとんどです。森林の荒廃を防ぐためにも、森林所有者や企業への営業は必須です。
私は林業の裏方(営業•森林調査•設計•管理•事務)に17年程度携わっており、国内4箇所の林業事業体で新規営業を行ってきた。ここでは私が見たもののみを書くので、あくまで全体の一部であることをご容赦願いたい。
この記事では、林業における新規営業の仕事について解説しており、自ら実践することによって、最終的に森林所有者の意向、入山•森林調査の許可、所有林の情報が分かるようになることを目的としています。その後の施業提案•金額交渉は林業の裏方が実践!営業の1日(いろんな関係者に交渉!)で解説しています。
林業の裏方の新人
(森林施業プランナー•事務方•森林調査員等)
日常業務で実践できる。または参考になる。
林業への就業•転職を考えている人
仕事内容を具体的に知る事で、将来働くイメージが湧きやすい。
林業の関係者
(森林所有者、林業事業体、山の利用者等)
林業の裏方を利用できる。または自ら実践できる。
目次の、新規営業はどうやって行うの?は、実際に裏方業務を実践する1日を描いた物語の第2話/全10話(切捨間伐•搬出間伐•皆伐編)になっています。
林業の新規営業とは?
まずは所有林に対する意向調査と林業の仕事内容の提案をすることになります。
基本的に森林調査を行なっていない場合では、「どのような作業が必要か」というのは分かっていませんので、山に入る許可、森林調査をしてよいかの許可、森林調査に必要な情報を聞く事が重要になってきます。
当然お金の話になりますが、新規営業の場合、森林所有者の費用負担はない事が多いため「推進」、「声かけ」などと呼ぶ事もあります。
林業での新規営業は「搬出間伐•皆伐」の「立木の伐採•搬出•販売」を中心にしつつ、「可能な限り育林も提案」しているという現状です。
誰に新規営業するの?
森林所有者•企業に営業する主な理由
・「隣の山を伐採する時」
・「別の山の調査中、荒廃した山を見つけた」
・「伐採適齢期(※)である」等。
山の管理を委託されている場合は、
・「山の状況を見て適切な時期」
(※)皆伐した際、最も収穫量が期待できる樹齢。スギは35~60年、ヒノキは45~70年等。
その他に営業する場合
同業者、協力業者等には部分的な作業請負の営業。
また地域の方•団体に挨拶に行った際には営業。
地方公共団体への営業はここでは割愛しますが、国•地方自治体との情報共有は大切です。
新規営業はどうやって行うの?
1日の仕事から新規営業に関する内容だけを抜粋して、順を追って解説していきます。
ここからは第1話目次「営業(依頼があった場合)はどうやって行うの?」の続きです。
林業会社勤務の裏方(以下裏方くん)
森林所有者のBさん(以下Bさん)
森林所有者のCさん(以下Cさん)
森林所有者のAさん(以下Aさん)
依頼のあったAさんの山の森林調査の許可済み。これからAさんが10時にアポをとってくれた隣接所有者Bさんと、何の情報もない隣接所有者Cさんに新規営業に行きます。
新規営業に必要な資料の準備
9/1AM 9:30
すでに以下の書類を持っています。
Cさんの氏名・住所・電話番号を調べるためには、以下2つの資料が必要になります。
⑤.登記簿
ここは出先なので、Cさんの山の地番は、ネットで登記情報を取得します。Cさんに住所•氏名が分かりました。幸い住所は現在も存在し、氏名も今風の名前でした。
⑥.電話帳
ここではハローページを車に積んでいたので、それを利用します。
登記簿の内容で電話帳を調べると、Cさんの住所は同じですが、氏名は苗字だけが一緒でした。おそらく、登記簿もしくは電話帳の氏名は、Cさん•Cさんの子供•Cさんの両親等であると仮定できます。
新規営業( 紹介の営業相手Bさんの意向調査と森林調査許可)
9/1AM10:00
Bさん(Aさんの紹介者)のご自宅に着きました。
基本的にはBさんはAさんと同じ悩み(所有林をどうしようか迷っている)なので、営業(依頼主の話を聞き、今後の方向性を一緒に決める)と聞くことはほぼ同じですが、おさらいとして少し内容を変えていきます。まずは自己紹介をし、森林計画図•森林簿•航空写真を広げ、確認してもらいながら進めます。
2.実際に所有しているかどうか!
山はよく行かれますか?
一度も行ったことないし、納税通知書にもこの山載ってないんですよ
名寄帳はお持ちですか?
あります。あれ?こっちには載ってますね
おそらく保安林に指定されてますね。非課税の不動産は納税通知書には載らないんです」
山との関与が全くない森林所有者との会話では、地番と地目(宅地•畑•山林等)を確実に確認して、伐採後のトラブルを予防しましょう。
3.自分の山をどうしたいのか!
どういう山にしたいですか?
普段の仕事が忙しいし、考える時間もないし、プロに任せたいです
では山に入って調査をして、作業の必要があれば提案させていただいてよろしいでしょうか?例えば木が密集していたら間伐して…木材搬出が可能なら作業道開設をして…
近所に迷惑かけない程度の山にしてください
山の作業内容をお任せされた場合は、どういう作業があるのかを説明しましょう。
4.山に案内できるか、また境界が分かるかどうか!
山の境界はご存知でしょうか?
全く分かりません
承知しました。私が見てきて後で状況をお伝えしますが…境界が確定できなかった場合、作業はできない可能性もあります。
山に来れず、境界も分からない森林林所有者には、作業が不可能もしくは分かる範囲まで狭めて作業する可能性があることを伝えましょう。
5.隣接するの山の情報を聞く!
Cさんの事ご存知ですか?
あまり知らないんですけど、かなり山に詳しいらしい…でもちょっと頑固な人だから…
今日は貴重なお時間ありがとうございました。Cさんの情報も参考になりました。また森林調査が終わったらご連絡差し上げます
2.〜5.の会話の中で、Bさんは山に興味がないが、他人に迷惑をかけない程度の山にはしたいと考えている方だと判断できます。1.地番が分かるか!はAさんとの対話で分かっているので省略。
新規営業( 新規の営業相手Cさんの意向調査と境界立会依頼)
9/1AM11:00
Cさんに電話をし、11時に会ってくれることになり、ご自宅に着きました。
Aさん•Bさんと違うところは、「山の悩みがあるか分からない」、そもそも「この営業マンは何者だ」ということになりますので、上記1~5の順番をかえ、自己紹介を最初に丁寧にします。そして森林計画図•森林簿•航空写真を広げ、確認してもらいながら進みます。
0.私はどこの誰で何の目的で来たか説明!
初めまして〇〇林業の裏方くんと申しますが、〇〇地域の山の件でご相談したいことがございます
〇〇林業?知らんな。〇〇地域に山はあるが、林業会社に用はないぞ
自分の山の所有状況を他人が知っていることを、面白くないと感じる人はいます。もしそうなった場合は、「依頼のあった山を作業するために周辺の山を登記簿で調べた」と伝えましょう。登記簿は誰でも取得が可能です。「〇〇さんから聞いた」などは注意すべき発言です。
3.自分の山をどうしたいのか!
実は今度〇〇地域で森林調査を頼まれていて、隣の山なので、境界を知りたいのと…せっかくなので一緒に調査して、必要があれば間伐•皆伐等提案させていただけたらと思いまして…
山を良くするのは結構だが、うちの山は作業する必要がないくらい立派な山だぞ
素晴らしいです!ずっと山に手を入れてこられたのですね…どんな森で…どんな木が…
目標とする森林の姿が明確な森林所有者との会話では、より具体的な森林の姿(樹種•林齢•直径•樹高•立木密度等)の共有を目指しましょう。何が立派な山かは人それぞれです。
4.山に案内できるか、また境界が分かるかどうか!
参考までに見て勉強させて頂きたいんですが…山にご一緒に…
勝手に伐られたら困るし、境界なら案内してやってもいいぞ
山の境界が分かる人は貴重です。地域の山の情報も詳しい可能性もあるので、ありがたい存在です。
5.隣接するの山の情報を聞く!
ありがとうございます。ちなみにAさんBさんはご存知ですか?
知らん!あいつらの山は全く手も入れてないし、うちの山が暗くなってしょうがない
3~5の会話の中でCさんは山の知識があり、山に熱心で大切にされてきた方だと判断できますので、1.地番が分かるか!は省略。2.実際に所有しているかどうか!は登記簿取得済みなので省略。
新規営業完了(次はCさんと境界立会)
9/1AM12:00
新規営業の後は、今日話した内容をしっかりメモ帳に記録する癖をつけましょう。後で「言った、言ってない」のトラブルになります。
本日の成果は、Bさんの森林調査許可済み。Cさんの境界立会確定。
意向調査によって森林所有者の考えが分かった。
入山•森林調査の許可について分かった。
森林調査に必要な情報が分かった。
さあ午後からの境界立会に向けて、山道具を準備して山に向かいます。
物語として読みたい、実践のみ知りたい方は第3話目次「森林調査(境界調査)はどうやって行うの?」に飛んでください。
まとめ
新規営業の実践はご理解いただけたしょうか?冒頭の質問に答えます。
・「林業って誰に営業してるの?」
日本の森林の約6割は個人・企業が持っており、林業に興味がない方がほとんどです。林業の裏方は、「荒廃した森林」を整備するため、「隣の山を伐採する時」に一体的整備をするため、「伐採適齢期である」のに放置されている山を循環させるため、森林所有者や企業へ新規営業を行います。国•地方自治体への営業もあります。
・「山を間伐しませんか?」って営業が来た!
林業の裏方は「所有林に対する意向調査と林業の仕事内容の提案」をします。もし、自分の森林がどういう状況なのか気になっていた場合は、どんどん不明点を質問し、「どのような作業が必要か」を明確にするためにも、「山に入る許可、森林調査の許可、所有林の情報」を提供して下さい。もちろん営業が信用できない場合、森林調査結果後の提案が納得できなければ断っていただいても構いません。
・「新規営業が苦手だ!」
新規営業前
必要な資料を事前に準備
森林計画図、森林簿、航空写真、登記簿、電話帳
新規営業中
営業(依頼主の話を聞き、今後の方向性を一緒に決める)を参照しつつ順番を変える
0.私はどこの誰で何の目的で来たか説明!
3.自分の山をどうしたいか!
興味を持っていただけたら、
4.山に案内できるか、また境界が分かるかどうか!
5.隣接するの山の情報を聞く!
確認が可能であれば、
1.地番が分かるか!
2.実際に所有しているかどうか!
新規営業完了
今日話した内容をしっかりメモ帳に記録
森林所有者の意向が分かったか。
入山•森林調査の許可が取れたか。
森林調査に必要な情報が分かったか。
新規営業から全てが始まります。
裏方の新人は日常業務で実践!
就業•転職希望者はイメージ!
林業の関係者は裏方を利用!また自ら実践!
続き(第3話)はこちら⬇︎
作業提案•金額交渉にかかる営業(交渉)(第7話)はこちら⬇︎
林業、裏方、森林の事をもっと詳しく知りたい方はこちら⬇︎
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