- 「山の地積(㎡)は決まっているのに測量する必要があるの?」
- 「自分の山の面積が知りたい!」
- 「どういう手順で山の面積を測るの?」
- 「測量はきつい!」
じつは林業には森林調査(測量)の仕事があります。測量は作業範囲の面積を測る作業で、「何本伐るか」、「材積が何m3出るか」、「作業が何日かかるか」等、「設計」や「管理」に影響します。
私は林業の裏方(営業•森林調査•設計•管理•事務)に17年程度携わっており、国内4箇所の林業事業体で測量をしてきた。ここでは私が見たもののみを書くので、あくまで全体の一部であることをご容赦願いたい。
この記事では、林業における森林調査(測量)の仕事について解説しており、自ら実践することによって、最終的に測量野帳•測量図を作成でき、作業範囲の面積が分かるようになることを目的としています。
林業の裏方の新人
(森林施業プランナー•事務方•森林調査員等)
日常業務で実践できる。または参考になる。
林業への就業•転職を考えている人
仕事内容を具体的に知る事で、将来働くイメージが湧きやすい。
林業の関係者
(森林所有者、林業事業体、山の利用者等)
林業の裏方を利用できる。または自ら実践できる。
目次の、森林調査(測量)はどうやって行うの?は、実際に裏方業務を実践する1日を描いた物語の第8話/全10話(切捨間伐•搬出間伐•皆伐編)になっています。
林業の森林調査(測量)とは?
林業の測量とは作業範囲の外周を測量機器を使って歩き、面積を測定すること。山の場合は数cmの精度は求めないので簡易測量とも呼ばれる。
測量で取得する必要なデータは、
1.測点間ごとの(測量杭No.1〜測量杭No.2等)
2.方位角(測る方角で北0°東90°南180°西270°)
3.高低角(測る方角の傾斜で-50°〜50°)
4.斜距離(測る方角の距離で0〜50m)
であり、その記録が測量野帳と呼ばれる。
測量野帳をもとに製図したものが測量図であり、面積•土地の形状が分かる。
閉合比(誤差)が1/100(100m測って1mの誤差)であれば合格とみなされる。
林業の測量の2つの方法
アナログコンパス測量(基本)
ポールマン(先行してポールを持つ人)とコンパスマン(後方でコンパスを読み野帳に記録する人)の2人1組で行います。一連の流れはポールマンがけん縄(50mの巻尺)の先端を持って境界を歩き、測点No.1を決め測量杭を打ち、測量杭の位置にポールを真直ぐ立てます。コンパスマンはSP(測点No.0)にいて、三脚付きの牛方ポケットコンパスを水平に設置し、スコープでポールの1.2mを覗き方位角•高低角の目盛を測量野帳に記録、合わせてけん縄をピンと張り目盛を野帳に記録。次にコンパスマンは測点No.1に向いコンパスを設置します。ポールマンは測点No.1の近くの木に目印テープをつけたら、測点No.2に向いポールを立てます。これを繰り返しながらSP(測点No.0)に戻ってきたら、範囲が囲まれて測量は終了です。
昔ながらの方法ですが、精度が良く、傾斜や距離などの山を見る基本が体に染み込むのでおすすめです。
デジタルコンパス測量(主流)
アナログコンパスの発展版で理屈は同じ。方位角・高低角・斜距離をボタン1つで所得してくれるので、スピードが上がり、初心者でも使いやすい。GPS付PDA (小型PC)があれば取得データを直接bluetoothで記録させ、野帳に書く手間を省ける。またPDAの画面上に測点と線が自動で作成されるので、位置•形状が理解しやすい。
ここ10年位の主流の方法ですが、やや精度は落ち、機械が高価なため取り扱いに気をつかう。
その他、GPS測量・ドローン測量等を利用している事業体もあります。1人でできるメリットもあるが、小面積での精度面はやや不安である。
林業で測量が必要な3つの場合
地積調査が行われていない場合
まず登記簿を取得して地積(㎡)とある部分が、その地番の面積になります。地籍調査が行われていれば面積はほぼ正確ですが、そうでない場合は不正確のことが多いです。
地番すべてを作業しない場合
例えば、同一地番でも広葉樹林を除いてスギ林のみ皆伐する場合、荒廃した箇所のみ間伐する場合、伐採跡地のみ植林する場合等があります。
机上でも公図•森林計画図に航空写真を重ねてみると、地番内の林分分布が概ね分かります。
境界調査の結果、あきらかに公図•森林計画図と形が違う場合。
公的な図面でも間違いはあります。
森林調査(測量)はどうやって行うの?
1日の仕事から測量に関する内容だけを抜粋して、順を追って関節していきます。
ここからは第7話目次営業(交渉)はどうやって行うの?の続きです。
林業会社勤務の裏方(以下裏方くん)
裏方くんの部下(以下裏方ちゃん)
森林所有者のCさん(以下Cさん)
Cさんに皆伐の見積書を提出した結果、測量面積を希望されたので、これから測量をします!
測量に必要な資料•山道具の準備
9/7AM8:00
ポールマン
コンパスマン
16.測量道具
・デジタルコンパス(トゥルーパルス360)
・GPS付PDA
・予備電池
ポールマン•コンパスマン各々もつ
①.~③.は基本資料。1.~5.は基本装備(応急処置用品は必要に応じ)。16.6.7.は測量で必須。
測量の準備(Cさんの山に到着)
9/7AM8:30
1.ルートを決める!
まず河川沿いから始めて➡︎広葉樹が見えてきたら外周測量を一旦中断して➡︎除地測量を行う➡︎終わったら中断地点まで戻り➡︎外周測量を再開して➡︎急斜面の境界を登ったら、Aさんとの境界の尾根を降りてこよう!
外周測量を中断することで、重複して歩く距離を減らしてるんですね!それなら午前中で終わりそう!
2.ポールマン・コンパスマンを決める!
僕はCさんと境界を一回歩いてるからポールマンやるよ
じゃ私はコンパスマンですね
コンパスマンは機械操作さえ覚えれば誰でもできます。しかし、方位角•高低角•距離が正確かどうかを見極める基礎知識は必要です。
3.測量機械をセッティングする!
コンパスマンは、まず体上半身の磁気(携帯•ペン•ネックレス等の金属類)があるものを取り外し、測量のSP (開始点)に立ち、デジタルコンパスをキャリブレーション(正しい方位を記憶させる)し、PDAのGPSが現在の位置を指し示していれば、PDAとデジタルコンパスをBluetoothで接続し設定終了です。
測量開始(Cさんの山を測る)
9/7AM 9:00
1.ポールマンは次の測点を予測する!
次にどの辺に杭を打つか予想します。コンパスの高さが1.2mなら、その高さまで見線を落とし、
・なるべく長距離(30m以内)
・障害物が少ない
・境界に近い
ところに決めます。地形の関係でしょうがない事もありますが、近距離(10m以内)で測定すると精度が落ちます。
2.ポールマンは測量する境界に支障となる枝•低木を除去する!
この位置で見えるかな?
葉っぱが邪魔してレーザーが反応しません!
葉っぱ一枚でもレーザーにかかれば測定はできません。予測したルートを歩きながら、枝•低木をナタで伐ります。不用意に伐りまくるのは環境的にも良くないので最低限にしましょう。伐れない木(サカキ等貴重または故意に植えた木)がある場合は、手で抑える、搔き分ける、それでもダメならルート自体を変えましょう。
3.ポールマンは測点(杭)の位置に注意する!
斜面が急すぎてコンパスが立ちません!
ごめん!再測量して少し位置を変えよう!
4.コンパスマンはデータを正確に記録する!
何かPDAでGPSの位置と測点の位置が違ってきてるんですけど!
両方が合うとこまで戻って再測量しよう!
デジタルコンパスは磁気の影響を受けます。近くにガードレール•電線•車等あると方位角が磁気に引っ張られて数度ずれます。積み重なると最終的に誤差が大きくなり、ゼロからやり直しなります。高低角•距離は大きくずれることはないのですが、たまに距離がおかしい事があります。レーザーが何かに当たって反応しているはずなので、距離の感覚を身につけ、気がつけるようになりましょう。
測量完了(現地で面積と閉合比を確認する)
9/7AM 12:00
面積と閉合比を教えて!
Cさんの外周測量の面積が3.10haで閉合比は1/400です。除地の方は面積0.3haで閉合比は1/250です
どっちも合格基準だね。ということはCさんの伐採面積は2.80haで決まりだ!
PDAがあれば現地で面積•閉合比•形状が分かります。昔は事務所に帰らなければ面積も閉合比も分からなかったので、便利になりました。
測量図作成(事務所で測量野帳をもとに製図)
9/7PM 13:30
事務所に帰って測量野帳を図化ソフト(製図してくれるソフト)に入力すれば測量図は完成です。ちなみに測量野帳にはNo.、方位角、高低角、斜距離が記入されてますが、測量図は斜距離を水平距離に変換し計算します。すなわち山の面積は傾斜が急であるほど小さくなります。
プリントアウトした図面がこちらです。
Cさんの測量図ができました。
測量前
外周面積3.2ha(森林簿)
除地面積0.40ha(図上)
測量後
外周面積3.1ha(実測)
除地面積0.30ha(実測)
計画より外周面積•除地ともには0.1haほど少なかったので、今回は計画も実測も同じ2.80haになりました。
測量によって測量野帳•測量図が作成できた。
正確な作業範囲の面積が分かった。
あとはCさんに見積書を再提出して結果を待つのみです。次はいよいよ作業が始まりますので管理です。
物語として読みたい、実践のみ知りたい方は第9話目次「管理はどうやって行うの?」に飛んでください。
まとめ
測量の実践はご理解いただけたしょうか?冒頭の質問に答えます。
・「山の地積(㎡)は決まっているのに測量する必要があるの?」
・地籍調査が行われていない場合
・地番すべてを作業しない場合
・境界調査の結果、あきらかに公図•森林計画図と形が違う場合
に測量をする必要があります。登記簿•公図•森林計画図•森林簿を鵜呑みにするのはトラブルのもとです。
・「自分の山の面積が知りたい!」
林業では簡易測量と呼ばれるコンパス測量(アナログ•デジタル)があり、2人1組で外周を周り、方位角•高低角•斜距離から面積を測定します。「登記簿の面積が信用ならない」、「作業範囲の面積を知りたい」等思ったら林業の裏方に相談してみましょう。
・「どういう手順で山の面積を測るの?」
・「測量はきつい!」
測量前
測量に必要な資料•山道具を準備
測量道具(デジタルコンパス、反射板付きポール、GPS付PDA、予備電池、測量杭)、カラーテープ、油性マジック
森林計画図、森林簿、航空写真
山の服装、携帯、水筒、応急処置用品、刃物(ナタ、ノコ)
測量の準備
1.ルートを決める!
2.ポールマン・コンパスマンを決める!
3.測量機械をセッティングする!
測量開始
1.ポールマンは次の測点を予測する!
2.ポールマンは測量する境界に支障となる枝•低木を除去する!
3.ポールマンは測点(杭)の位置に注意する!
4.コンパスマンはデータを正確に記録する!
測量完了
現地で面積と閉合比を確認
測量図作成
測量野帳をもとに測量図を作成
まとめ
測量図が作成でき、正確な作業範囲の面積が分かったか。
測量の技術を身につけると、大体の山は歩けるようになります。
裏方の新人は日常業務で実践!
就業•転職希望者はイメージ!
林業の関係者は裏方を利用!また自ら実践!
続き(第9話)はこちら⬇︎
林業、裏方、森林の事をもっと詳しく知りたい方はこちら⬇︎
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