- 「自分の山から木材搬出したい!」
- 「道や地形の影響で作業ができない?」
- 「木材搬出の調査方法が分からない!」
じつは林業には森林調査(道と地形の調査)の仕事があります。なぜなら道と地形の調査を行わなければ、作業をしたくても「傾斜が急すぎて人や重機が入れない」、「道が小さくてトラックが入らない」、「木材搬出したいけど置場が無い」等の問題がでる可能性があります。
私は林業の裏方(営業•森林調査•設計•管理•事務)に17年程度携わっており、国内4箇所の林業事業体で道と地形の調査をしてきた。ここでは私が見たもののみを書くので、あくまで全体の一部であることをご容赦願いたい。
この記事では、林業における森林調査(道と地形の調査)の仕事について解説しており、自ら実践することによって、最終的に伐採作業または作業道開設が可能(安全な作業ができる、車両•林業用機械が通行できる、道の修復•土場•障害物の位置と許可を取る相手が分かる)か否かを明確化できるようになることを目的にしています。
林業の裏方の新人
(森林施業プランナー•事務方•森林調査員等)
日常業務で実践できる。または参考になる。
林業への就業•転職を考えている人
仕事内容を具体的に知る事で、将来働くイメージが湧きやすい。
林業の関係者
(森林所有者、林業事業体、山の利用者等)
林業の裏方を利用できる。または自ら実践できる。
目次の、森林調査(道と地形の調査)はどうやって行うの?は、実際に裏方業務を実践する1日を描いた物語の第5話/全10話(切捨間伐•搬出間伐•皆伐編)になっています。
林業の森林調査(道と地形の調査)とは?
林業の裏方の最も専門性の高い仕事の1つになります。
道に関する情報を記録する!
作業候補地内と到達するまでの既設道(すでにある公道•私道)における調査内容。
- 所有権を調べる
- 幅員を測る
- 路面の状態(舗装•砂利道•凸凹•崩れ等)を調べる
- 通行に影響を与える周囲からの障害物(枝•枯木等)
- 道の周囲の土地(土場)の状況を調べる
調査の目的は作業の可不可である。作業員は通えるか、どんな車両(軽〜大型トラック)が入れるか、車が回転できるか、林業用機械は通れるか、修復は可能か、道脇に土場(木材置場)を作れるか、通行に支障となる障害物(枯木•枝等)があるか、また誰に許可を取るか等である。
地形に関する情報を記録する!
作業候補地の地形における調査内容。
- 傾斜を測る
- 地質を調べる
- 水脈を調べる
- 障害物を調べる
調査の目的は危険因子の把握である。作業員は安全に作業可能か、作業道の開設に無理はないか、障害物がどの程度作業に影響を与えるか。
作業道開設の設計に必要なデータを記録する!
上記の調査結果をもとに、作業道開設の計画を行います。
- 予定ルートを決める
- 延長を決める
- 幅員を決める
- 縦断勾配を決める
- 地山勾配を測る
- 排水他構造物の設置を決める
これらを事前に調査してないと、どんなに山が荒廃していても、作業も木材搬出も不可能になる事があります。
そもそも山の道と地形って?
山の道の種類
管理者によって大きく2つに分かれます。林業で主に使う道を下記に記載します、
公道(国•都道府県•市町村が管理)
軽〜10t車の走行が可能で、通勤路、機械の回送、木材運搬に利用。
•道路法上の道路
国道•都道府県道•市町村道等
•道路法上以外の道路
林道(※1)、農道、赤道(※2)等
(※1)森林の整備・保全を目的とした道路
(※2)昔の道の跡で公図に地番がない土地
私道(個人や法人が所有し管理)
車道であれば、通勤路、機械の回送、木材の搬出で利用しますが、森林作業道は林業用機械の走行や作業場所、木材搬出に利用。遊歩道•赤道•けもの道は人の移動に利用。
上図5では歩道•既設作業道(森林作業道)は個人の土地なので私道。市道、林道は公道。
山の地形
山の地形は尾根と沢でできています。沢と沢の間の高いところが尾根、尾根と尾根の間の低いところが沢です。地図の等高線では分かりづらいですが必ずそうなっています。傾斜は等高線が開いていれば緩やか、詰まっていれば急です。
森林調査(道と地形の調査)はどうやって行うの?
1日の仕事から森林調査(道と地形の調査)に関する内容だけを抜粋して、順を追って解説していきます。
ここからは第4話目次「森林調査(立木調査)はどうやって行うの」の続きです。
林業会社勤務の裏方(以下裏方くん)
裏方くんの部下(以下裏方ちゃん)
森林所有者のAさん(以下Aさん)
森林所有者のBさん(以下Bさん)
森林所有者のCさん(以下Cさん)
AさんBさんCさんの森林調査(立木調査)済み。これから作業内容(Aさん搬出間伐Bさん切捨間伐Cさん皆伐)が可能かどうかを道と地形から検討します。
道と地形の調査に必要な資料•山道具の準備
9/2PM13:00
用意していた資料・山道具を確認します。
アンダーラインは必須!
追加で準備する山道具
①.~③.は基本資料。1.~9.は基本装備(応急処置用品は必要に応じ)。13.14.15.16は道と地形の調査で必須。
道の調査(既設道の所有権•延長•幅員•路面の状態•周囲の状況を調査)
9/2PM 13:15
メジャーで幅員を測り、路面の状態を目視で確認、通行に影響を与える周囲からの障害物(枝•枯木等)があれば、適時カラーテープで印。必要に応じ土場(木材置場)も確認。調査結果をカメラ•森林計画図に記録。道の所有権•障害物•土場は誰に許可を取るかもメモ帳に記録。
1.市道(公道)の調査
基本的に公共の道路は、災害でもない限り大きく使用できない事は無いので、主な調査内容はどんな車両が通行ができるか、回転場があるかになります。
事務所から来た感じだと、市道の終点までは大型トラックが入るね
はい!舗装路で幅員も5mあるし、急なカーブも特になかったし、終点が広くなってるから10t車なら回転できそうです
そうだね。もし林道調査して大型車が入らないなら、この辺に土場が欲しいな
ちょうど回転場の横に空き地があるから誰の土地か調べます。平坦だから材も掴みやすいと思います
2.林道(公道)の調査
林道は規格(3t車〜10t車)も様々ですが、あまり使われない林道は軽でも恐怖を感じます。回転場は終点にだいたいあります。主な調査内容はどんな車両が通行ができるか、補修の有無、周囲からの障害物になります。
看板があるからここから林道だね。幅員が3mしかないから3t車しか入らないな
しかも、Aさんの山から土砂が流れ込んで、幅員1.5mのところもあるし、全体的に道がぬかるんで車が走りづらそう。枝葉の張り出しも気になります
枝葉はAさんの木だから、少し伐らせてもらおう。林道修復は後で市(林道管理者)に相談してみるよ。修復予定箇所にカラーテープを巻いておこう
はい。終点は3t車の回転場もあるし大丈夫です
土場はAさんの山の麓が平らだから、作って良いかお願いしよう
3.既設森林作業道(私道)の調査
1から道を作る手間と既設の道を直す手間は雲泥の差です。昔の人は地形を熟知して道を作っています。徹底的に既設道があるか探しましょう。主な調査内容は所有権、延長•幅員、補修の有無、周囲からの障害物になります。
Cさんの山に道があればいいのに
よく見て!林道の終点からCさんの山に道があるよ
ほんとだ!草がボサボサで分からなかった!
多分10年以上前に作った道だね。幅員2mはあるから、拡幅•整地したら使えそうだ。延長も測っておくとフォワーダ(木材搬出専用の林業機械)が一日何往復できるか分かるよ。
地形の調査(山の傾斜•地質•水脈•障害物の調査)
9/2PM13:45
事前に境界調査•立木調査を行っているので概ね目視での確認は済んでますが、現場作業員は毎日ここに通うので、危険因子をあらためて確認しておきましょう。
1.傾斜を測る
.ポール1本、傾斜測定器を用意し、数カ所調査し森林計画図に記録。
- 〜20°ほぼ平でどんな作業も可能
- 〜30°緩やかで重機の移動もしやすい
- 〜35°やや急で重機はここまで
- 〜40°急で人が作業するのも危険
- 〜45°急峻で人の作業が限界
- 〜50°ほぼ壁で何もできない。
2.地質を調べる
目視、手触り、歩き具合で調査し森林計画図に記録。
岩が多い場所では落石•転落の危険がある。また重機が侵入しづらく作業道が作れない。土粒子が均一だと、ぬかるみ、作業道開設の際の締め固めが困難になる。色々な大きさの岩・土が混ざっているところが路盤も安定し作業に適している。
3.水脈を調べる
目視で調査し森林計画図に記録。実際に水が流れている以外にも、地下に水が流れていることもあります。正直、地面の中なので分からない事も多いですが、何かぬかるんでる、そこだけ植物が生えている、木が同じ方向に曲がっている、過去に崩れた跡がある等を目安にしましょう。
4.障害物の有無を調べる
目視で調査し、障害物にカラーテープで印。カメラ•森林計画図に記録。しいたけ•千両•サカキ等を山で商品として育てている場合がある。他は柵や小屋や電線等もあり、分かりづらいのが祠やお墓です。作業に入って気づかずに壊してしまわないよう、よく見ておきましょう。
作業道開設の調査(開設予定ルートの計画•延長•幅員•縦断勾配•地山勾配•排水他構造物の調査)
9/2PM15:00
森林作業道はあくまで簡易道であり、いづれは山に戻ることを想定して作りますので、山の形状を大きく変えないよう注意します。
1.開設予定ルートを計画する
森林計画図を広げ、既設道と地形の調査結果を勘案しながら、作業道開設予定ルートを計画します。
Aさんの山は平均傾斜30度で、地質も大小の岩まじり、大きな沢も障害物もなく搬出間伐に適しているから道をつけよう
林道の終点は法面が低くてAさんの山に入りやすいです
Bさんの山にも道を入れたいけど、沢が急だし流水があるからAさんの尾根でUターンしてCさんの山の上部に向かおう
これでAさんとCさんは全域で木材が収穫できますね!
2.延長•幅員を計画する
森林計画図に計画ルートを落とし込み、延長を図上で測る。
延長は250〜300mくらいになりそうだな
Aさんの面積は森林簿では3ha位だったから、山に無理のない密度ですね!
幅員はこの山の傾斜なら3mで大丈夫そうだ
0.45㎥クラスの重機も入りますね
3.延長•縦断勾配(※)を測る
(※)道の延長方向の傾斜
ポール2本、カラーテープ、測量道具を用意して、延長•縦断勾配を測っていきます。トゥルーパルスで距離(延長)と傾斜角(縦断勾配)を記録します。
測量については第8話林業の裏方が実践!森林調査の1日 (面積を測る!)で具体的に解説しています。
延長•縦断勾配を測るから、僕は先頭でポールをたてて測点杭を打ちカラーテープを巻いてくよ。
私は後ろからトゥルーパルス360で測って記録していきます!縦断勾配が10°超えてたら言いますね!
4.地山勾配(山の傾斜)を測る
終点まで来たから、ルートを戻りながら、測点杭の位置でそれぞれ地山勾配を見ていこう
山の上方は少し急傾斜でしたもんね
ここでは傾斜測定器ではなくポール横断(※)の方法で地山勾配を測定し、メモ帳に記録します。
(※)ポール横断とは2本のポールを十時にあてて、中心点から斜面上方•斜面下方に何cm上がって(下がって)何cm進んで、を繰り返し、書き記した数値を元に、横断図を作り、地山勾配、法面の高さ•角度、土量を算出するための測量。
補助金申請時に断面図の作成が必要なため、作業道開設が完了したら再度測ります。ここでは測点杭の位置で測定するので、最終的に総延長の内、〜15°、15°~25°、25°〜35°、35°〜がそれぞれ何mあるかが分かります。
5.排水•構造物の有無を調べる
目視で排水•構造物の位置を確認し、必要に応じ現地にカラーテープで印し、森林計画図に落とし込みます。
大きな沢もなく最大傾斜も35°以下でしたね
構造物は必要ないと思うけど、水切りは数カ所設置した方が良さそうだね。また現場班長さんと一緒に歩いて再検討しないと。
作業道で最も重要なのは水のコントロールである。大きな沢がなくても、雨水は作業道に集まってきます。尾根や道のカーブを中心に排水を行う必要があります。
構造物の設置は施業が始まって必要になることもありますので、検討しておきましょう。
道と地形の調査完了(調査結果から切捨•搬出間伐•皆伐の可能性が見えた)
9/2PM16:30
午後の結果はこんな感じになりました。
AさんBさんCさんの道と地形も分かりました。
前回の立木調査で分かった「作業内容」に加えて「作業方法」も見えてきます。すなわち切捨間伐•搬出間伐•皆伐が可能であることが、ほぼ確定してきています。
作業員が安全に作業できることが分かった。
作業に必要な車両•林業用機械が分かった。
道の修復、土場、通行•作業に支障となる障害物の位置が分かった。また誰に許可を取るかも分かった。
作業道開設に無理がないことが分かった。また設計に必要なデータが取得できた。
さあ明日は今までのデータを元に、作業計画図•見積書を作ります。森林調査が形になり、第3者に説明する資料•書類に変わります。
物語として読みたい、実践のみ知りたい方は第6話目次「設計はどうやって行うの?」に飛んでください。
まとめ
道と地形の調査の実践はご理解いただけたしょうか?冒頭の質問に答えます。
・「自分の山から木材搬出したい!」
・「道や地形の影響で作業ができない?」
林業には森林調査(道と地形の調査)の仕事があり、「どういう作業が可能か」を調べるために、道の調査(既設道の所有権•延長•幅員•路面の状態•周囲の状況)と地形の調査(山の傾斜•地質•水脈•障害物)を行います。調査結果次第では作業が不可能になる事があります。自分の思う作業が可能かどうか気になる方は、林業の裏方に相談してみることをお勧めします。
・「木材搬出の調査方法が分からない!」
道と地形の調査前
必要な資料•山道具を準備
森林計画図、森林簿、航空写真、調査票(プロット調査用)
山の服装、携帯、水筒、応急処置用品、刃物(ナタ、ノコ)、カラーテープ2~4色、文房具(シャーペン、色ペン、マジック)、GPS、カメラ、傾斜測定器、メジャー、ポール2本、測量道具
道の調査開始
道に関する情報を記録する!
公道(市町村道•林道等)•私道(森林作業道等)の順番で以下を調査
・所有権を調べる
・幅員を測る
・路面の状態(舗装•砂利道•凸凹•崩れ等)を調べる
・通行に影響を与える周囲からの障害物(枝•枯木等)
・道の周囲の土地(土場)の状況を調べる
ポイントは大型トラック→小型トラック→林業用機械→作業員が、それぞれの道のどこまで侵入できるかです。その後どこを修復するか、どこが通行の障害か、どこを土場にするか、誰に許可を取るかを調べます。
地形の調査開始
地形に関する情報を記録する!
1.傾斜を測る
2.地質を調べる
3.水脈を調べる
4.障害物の有無を調べる
これは作業の危険因子の把握になります。
作業道開設の調査開始
作業道開設の設計に関するデータを記録する!
1.開設予定ルートを計画する
2.延長•幅員を計画する
3.延長•縦断勾配を測る
4.地山勾配(山の傾斜)を測る
5.排水•構造物の有無を調べる
これは作業道が開設可能か、路網密度•幅員•縦断勾配に無理がないか、地山勾配から作業日数はどのくらいで、どのように排水し、資材は必要かの把握になります。
道と地形の調査完了
調査結果のまとめ
作業員が安全に作業できるか。
作業に必要な車両•林業用機械が分かったか。
道の修復、土場、障害物の位置は分かったか。また誰に許可を取るか分かったか。
作業道開設に無理はないか。また設計に必要なデータは取得したか。
道と地形の技術を身につけると、施業が可能か否かが分かるようになります。
裏方の新人は日常業務で実践!
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林業の関係者は裏方を利用!また自ら実践!
続き(第6話)はこちら⬇︎
林業、裏方、森林の事をもっと詳しく知りたい方はこちら⬇︎
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