林業の裏方が実践!事務の1日(書類はタイミング!) 

林業×裏方×事務 実践編(切捨間伐•搬出間伐•皆伐)
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  • 「森林所有者との契約とは?」
  • 「関係者•業者との契約•支払いとは?」
  • 「国•地方自治体に提出する届出•申請とは?」

じつは林業には事務の仕事があります。ここで言う事務とは国•地方自治体への届出•申請•契約等、森林所有者•関係者•業者との契約•精算•支払い等を意味します。これら森林施業に必要な書類は現場に紐付いていますので、山が分からなければ上記の事務はできません。すなわち営業•森林調査•設計•管理を行う裏方がする事務ということになります。

自己紹介

私は林業の裏方(営業•森林調査•設計•管理•事務)に17年程度携わっており、国内4箇所の林業事業体で事務をしてきた。ここでは私が見たもののみを書くので、あくまで全体の一部であることをご容赦願いたい。

この記事では、林業における事務の仕事について解説しており、「施業に必要な書類を適切な時期に作成•提示•提出」する事務を自ら実践することによって、最終的に施業を滞りなく行えるようになることを目的としています。

この記事が役立つ読者

林業の裏方の新人
(森林施業プランナー•事務方•森林調査員等)
日常業務で実践できる。または参考になる。
林業への就業•転職を考えている人
仕事内容を具体的に知る事で、将来働くイメージが湧きやすい。
林業の関係者
(森林所有者、林業事業体、山の利用者等)
林業の裏方を利用できる。または自ら実践できる。

目次の、事務はどうやって行うの?は、実際に裏方業務を実践する1日を描いた物語の第10話/全10話(切捨間伐•搬出間伐•皆伐編)になっています。

林業の事務とは?

束になった書類の写真

林業には大きく2種類の事務があります。

  1. 社長•総務担当者が行う会社運営にかかる事務
  2. 裏方が行う施業にかかる事務

施業にかかる事務とは、営業•森林調査•設計•管理等で得た情報をもとに、

  • 施業現場ごとに必要な書類を、
  • 適切な時期に、
  • 作成•提示•提出し、
  • 施業を滞りなく進める

という事務になり、現場ごとに必要な関係者•森林情報•制度についての知識が必要になります。

例えば、施業前に森林所有者•関係者(施業に必要な土地•道の所有者)•業者(トラック運転手,重機のリース会社,林業請負業者等)と施業内容を確認し契約、国•地方自治体には施業実行に必要な届出•申請•契約を行います。施業中•施業後は、森林所有者に請求•精算、関係者•業者に支払い、国•地方自治体に届出•申請を行います。

提出のタイミングを間違えると、施業は実行できません!

事務はどうやって行うの?

さっそく実践(切捨間伐搬出間伐皆伐編)になります。

1日の仕事から事務に関する内容だけを抜粋して、順を追って説明していきます。

ここからは第9話目次「管理はどうやって行うの?」の続きです。

登場人物

林業会社勤務の裏方(以下裏方くん)
森林所有者のAさん(以下Aさん
森林所有者のBさん(以下Bさん)
森林所有者のCさん(以下Cさん)
中間土場の所有者(以下土場主さん)
市の林務担当(以下)
県の森林整備担当(以下)
トラック運転手
機械回送業者

前回までのあらすじ

Aさんの搬出間伐•Bさんの切捨間伐•Cさんの皆伐が無事完了し、現場の状況確認•森林所有者との立合い•関係者への完了報告が済んでいます。これから県に補助金申請、市に届出、Aさんに精算金の支払い、土場主さんに借地料の支払い、トラック運転手•機械回送業者に作業費の支払い、新たに植栽を計画するCさんとの事務を行うのですが、これまで端折ってきた施業前•作業中の事務から時系列に説明します。

事務に必要な資料の準備

⑱.契約書(森林経営委託契約書同意書(承諾書、覚書等)立木売買契約書請負契約書借地契約書
⑲.森林経営計画(森林経営計画変更認定請求書、森林経営計画に係る伐採等の届出書)
⑳.保安林許可申請•届出書類(保安林内間伐届出書)
㉑.伐採届(伐採及び伐採後の造林の届出、伐採に係る森林の状況報告書)
㉒.補助金関係書類
㉓.精算書
その他請求書、領収書等

裏方note

各様式の見つけ方
同意書•立木売買契約書•請負契約書•借地契約書•精算書は自社で作成、森林経営計画関係は林野庁ほか各地方自治体のホームページ等、保安林関係•補助金関係は都道府県ホームページ等、伐採届は市町村ホームページ等にありますのでご確認ください。

施業前の事務

9/3以前

森林経営計画の作成
作成方法については長くなるのでここには書きませんが、地域に根ざしている、もしくはある程度の規模の林業事業体は森林経営計画を作成しています。裏方くんの勤務先○○林業でも、10年程前から地域の森林所有者さん達と森林経営委託契約を結んで、施業を行なっています。計画の作成は補助金受給に欠かせない条件であるため、請負以外で林業を行うには必須です。

9/3PM15:00〜PM16:30

Aさん森林経営委託契約書(A)の作成
Aさんの山は依頼があったばかりなので、まず森林経営委託契約書を締結し、森林経営計画には入れる段取りをします。作成は様式があるので、双方の住所•氏名、契約日•契約期間、地番ごとの契約対象森林を記載し2部作成。

Aさん同意書(A)の作成
同意書に具体的な作業内容(どこの地番を、どういうふうに間伐•作業道開設して、費用をどうするか)と双方の住所•氏名•契約日を記載し2部作成。補助金を利用する場合「5年間は皆伐•森林以外への転用はできません」という文言を記載します。

9/6AM 8:30〜AM 10:00

裏方くんAさん
見積書(※)を提出し、森林経営委託契約書(A)同意書(A)を提示、確認、署名。
(※)第6話目次「設計はどうやって行うの?」で作成済
裏方くんAさん
搬出間伐契約の締結

9/8AM8:00〜AM12:00

Bさん山の保安林許可申請•届出の作成
切捨間伐なので、保安林内間伐届出書(B)のみ様式に沿って作成 。Bさん山の保安林用同意書(B)•図面•写真も合わせて用意。

同じく森林経営計画に入ってないBさん森林経営委託契約書(B)同意書(B)を作成。

前日の測量で面積が変わったので、Cさん山の見積書(C)を訂正します。

AさんBさん山の森林経営計画変更認定請求(A•B)の作成
森林経営委託契約を結んだ山を、新たに森林経営計画に加えると、当初と計画箇所•計画量と変わるので、変更認定の請求をに行う必要があります。様式に沿って地番の追加と全体の数字の変更を行いましょう。

林道修復の見積書(市)の作成
自社の林道修復にかかる経費を見積書に記入。

9/8PM13:00〜PM17:00

裏方くんBさん
森林経営委託契約書(B)同意書(B)保安林用同意書(B)を提示、確認、署名。
裏方くんBさん
切捨間伐契約の締結!保安林用同意書(B)に提出するため保管。

裏方くんCさん
見積書(C)提出
しばらく考えるとのことで連絡待ち。

裏方くん
Bさん山の保安林内間伐届出書(B)保安林用同意書(B)を提出。
※作業開始の20日前までに提出しましょう。

裏方くん
AさんBさん山の森林経営計画変更認定請求(A•B)を提出
※作業開始の30日程度前に提出しましょう。

裏方くん
林道修復の見積書(市)を提出
他社との相見積もり(市が他社の見積と比較して委託するかどうかを決定)なので連絡待ち。

9/10AM8:00〜AM12:00

土場主さんとの借地契約書(土場主)の作成
中間土場(木材置場)として、土地を貸していただけることなったので、借地契約書を作成。双方の住所•氏名、契約日•契約期間、地番、金額〇〇〇〇円/月等を記載し2部作成。

Cさんとの立木売買契約書(C)の作成
Cさんから電話で「見積内容で作業を依頼する」との連絡があったので、立木売買契約書を作成。見積書を参考にしながら、地番、買取金額、支払い方法(いつ•どこの金融機関に)、引渡し日、伐採期間(※)等を入れつつ、双方の住所•氏名、契約日を記載し2部作成。
(※)伐採期間は1〜2年見ておくと、急に木材価格が暴落しても立ち直しを図れるので安心です。

Cさん山の伐採届(C)の作成
森林経営計画に参加していない場合、伐採届の提出が義務付けられています。様式に沿って住所•氏名(連名)、地番、伐採計画、伐採後の造林の計画を記載し、図面を添付します。伐採後の造林はCさんから電話で、天然更新(自然に生えてくる広葉樹の山にする)にして、5年後に広葉樹が生えなかったら、コナラをhaあたり2,000本植林するとの事を聞いたので、それを記載します。

9/10PM13:00〜PM17:00

裏方くん土場主さん
借地契約書(土場主)を提示、確認、署名。
木材を撤収し、整地したら支払いをする事で合意。
裏方くん土場主さん
借地契約の締結!

裏方くんCさん
立木売買契約書(C)伐採届(C)を提示、確認、署名。
振込先を聞き、〇〇日に買取金を振り込むことで合意しました。
裏方くんCさん
立木売買契約の締結!

裏方くんCさん
Cさん山の伐採届(C)を提出
※作業開始の30日〜90日前に提出しましょう。

10/8AM9:00〜AM 12:00

裏方くん
提出していたBさん山の保安林内間伐届出書(B)に対し決定通知が届いたので、Bさんの保安林で間伐できるようになりました。
保安林での間伐が許可されました!

裏方くん
提出していたAさんBさん山の森林経営計画変更認定請求(A•B)に対し変更認定が届いたので、 A•Bさんの山が森林経営計画に入りました。
森林経営計画の変更が認定されました!

請負契約書(市)の作成•提出
提出していた林道修復の見積書(市)が、他社との相見積もりに勝ったため、林道修復の業務を受託できることが決まりました。様式に沿って業務名、業務場所、業務内容、業務期間、契約金額、受注者の住所•氏名を記載した請負契約書に印紙を貼って提出します。
裏方くん
林道修復業務委託契約の締結!

10/11PM13:00

裏方くんCさん
提出していたCさん山の伐採届(C)に対して決定通知が届いたので、Cさんの山を皆伐できます。
皆伐が受理されました!

施業中の事務

10/15AM 8:00〜2/21PM17:00

施業中に多いのは支払い関係です。〇〇日付け〇〇日払いと各社で決まっているので、関係者(土地の貸主、トラック運転手、機械回送業者、機械修理業者、重機のリース会社、山道具屋、砕石業者、建設業者、林業の請負業者等)から請求があれば支払いをしましょう。今回はトラック運転手機械回送業者から請求がありました。

また補助金関係書類も分かるとこから作成していきましょう。詳しくは施業後で述べます。

施業後の事務

12/1PM13:00〜PM15:00

Aさんの搬出間伐とBさんの切捨間伐が完了。

裏方くん
AさんBさん山の森林経営計画に係る伐採等の届出書(A•B)の作成•提出
森林経営計画に沿って伐採をした場合、完了して30日以内に提出する必要があります。様式に沿いながら、計画に対して作業後の実際の数字(時期、材積、作業道の延長等)を記載し提出します。

12/2AM8:00~12/3PM17:00

補助金関係書類の作成(Aさんの搬出間伐•作業道開設、Bさんの切捨間伐)
 補助金交付申請書(A•B)を作成します。森林環境保全直接支援事業を利用した補助金申請を行うので、様式に沿って、実施内訳書に作業後の実際の数字を入力し、施業図、搬出材積集計表、社会保険等加入状況調査票等(作成に必要な書類はたくさんあるので、ここでは割愛します)を作成します。申請に必要な間伐の条件{林齢は搬出で原則60年以下、切捨で原則35年以下、伐採率20%以上、面積0.1ha以上、搬出で10㎥/ha以上搬出、過去5年間に補助金を利用していない、1申請に5ha以上必要(※)等}、作業道開設の条件(縦断勾配14°以下等)が実際と一致しているかの確認も必要です。
(※)A•Bさんの山は面積合計3.8haなので、1.2ha以上の別の現場を追加して申請します。

裏方note

補助金交付申請書の作成時期
事務書類の中では、森林経営計画に次いで最もボリュームのある書類になり、作業が終わって作り始めてると数日かかるし、現地が補助金交付条件を満たしてない事が発覚すると目も当てられません。作業が始まったくらいから終わるまでに少しづつでも作成することをお勧めします。

12/6AM9:00~PM10:00

裏方くん
補助金交付申請書(A•B)の提出
その場で全部確認してくれる担当者もいれば、数週間後に確認する担当者もいて様々です。いずれにしろ書類の訂正はほぼあります。県の担当者とやりとりを続け、完成したら2〜3週間以内に検査が行われます。検査はここでは触れませんが、無事終わる人…再検査の人…酷い目に遭う人様々です。普段から山を真面目に考えていれば何の問題もありません。検査が終われば請求書(A•B)を出して補助金受領です。

12/29AM8:00~PM17:00

Aさん精算書(A)の作成
Aさん山の補助金にかかる検査が合格し、収入(木材売上•補助金額)と経費(作業費+諸経費+その他手数料)が確定したので収支計算をし精算書を作成します。見積書を提出しているので、同じ内容で実際の数値を入力すれば出来上がります。よほど現場で想定外の事が起きない限り、見積書より低い金額を提出することは、心理的に難しいです。今回は搬出材積も予定より多く、木相相場も予定通りだったので、精算金が多く支払え、会社も予定より黒字になりました。

Bさんの山も補助金額が確定したので収支計算をします。Bさんの山は畑周りの伐採で少し手間取って、若干の赤字になってしまいましたが、今後の施業も勘案して赤字分は会社持ちという事になりました。

12/29PM16:00~PM17:00

裏方くんAさん
精算書(A)提出
内容を説明し振込先を聞き、〇〇日に精算金を振り込むことで合意しました。

2/22PM 13:00〜PM17:00

裏方くん土場主さん
借地料の支払い
一緒に現地を確認してもらい、〇〇〇〇円/月×5ヶ月を翌月○○日に支払うことで合意。

裏方くんCさん
Cさん山の伐採に係る森林の状況報告書(C)の作成•提出
伐採届(C)を提出した場合、完了して30日以内に提出する必要があります。様式に沿いながら、提出した伐採届に対して作業後の実際の数字(材積、作業道の延長等)を記載し、Cさんと連名で提出します。

Cさんの木材が全て市場にかかったので、収支計算をします。予定材積より若干下がったものの、スギの価格が1月に上がったのと、経費が少し抑えられたことから、十分な黒字になりました。

これで全てが完了しました。

事務で分かったこと

施業に必要な書類を、適切な時期に、作成•提示•提出したら、施業が滞りなく完了した。

ちなみに裏方くんの施業前〜完了に至るスケジュール表はこちら

スケジュール表
表10 裏方くんのスケジュール表 ※日々の現場管理は省いてます

裏方の1日(切捨間伐•搬出間伐•皆伐編)
〜営業•森林調査•設計•管理•事務を実践する全10話の物語

次回はCさんの経営委託から植林以降の話になるかもしれません。(未定)
引き続き書いていきますので、よろしくお願いいたします。

まとめ

荒野を歩く足の拡大写真

事務の実践はご理解いただけたしょうか?冒頭の質問に答えます。

・「森林所有者との契約とは?」

林業事業体から見た森林所有者との契約は以下の通り。

切捨•搬出間伐•作業道開設
施業前
見積書を提出して納得いただいたら、
・森林経営委託契約書を作成→契約締結→双方で保管。
・同意書(承諾書、覚書等)を作成→契約締結→双方で保管。
・保安林なら保安林用同意書を作成→森林所有者の署名→県に提出。
施業後
・搬出間伐なら精算書を作成→提出→支払い。
・植林〜切捨間伐なら請求書作成→提出。

皆伐(植林しない)
施業前
見積書を提出して納得いただいたら、
・立木売買契約書の作成→契約締結→双方で保管。
・買取金の振込先を確認→支払い。
※保安林は植栽義務があるので植林しない場合は作業不可能です。

皆伐(植林が明確)
施業前
見積書を提出して納得いただいたら、
・立木売買契約書の作成→契約締結→双方で保管。
・森林経営委託契約書を作成→契約締結→双方で保管。
・買取金の振込先を確認→支払い。
・保安林なら保安林用同意書を作成→森林所有者の署名→県に提出。
施業後
林業事業体が植林するなら、
・同意書(承諾書、覚書等)を作成→契約締結→双方で保管。

※ 国補事業でも補助事業はいくつもあるし、都道府県や市町村の単独事業もいくつもあるので、この契約の流れは一例だと思ってください。

・「関係者•業者との契約•支払いとは?」

林業事業体から見た関係者•業者との契約•支払いは以下の通り。

土地を借りる場合(関係者)
施業前
金額を提示して納得いただいたら、
・借地契約書を作成→契約締結→双方で保管。
施業後
・契約金額を確認→支払い。

作業を依頼した場合(業者)
施業前
金額を提示して納得いただいたら、
・請負契約書の作成→契約締結→双方で保管。
施業後
・請求書が届いたら→支払い。

現場の関係者•業者への支払いは、各社で〇〇日付け〇〇日払いと決まっているので、その旨を伝えましょう。

・「国•地方自治体に提出する届出•申請とは?」

林業事業体から見た国•地方自治体との届出•申請は以下の通り。

森林経営計画がある場合(切捨•搬出間伐•作業道開設•皆伐)
施業前
森林経営委託契約書を締結したら、

・森林経営計画変更認定請求の作成→市町村に提出→変更認定が届く。
・保安林であれば保安林許可申請•届出の作成→提出→決定通知が届く。
施業後
・森林経営計画に係る伐採等の届出書の作成→提出。
・補助金関係書類の作成→提出→検査→合格→請求書→補助金受領。

森林経営計画がない場合(皆伐)
施業前
・伐採届を作成→連名で署名→市に提出。
施業後
・伐採に係る森林の状況報告書の作成→連名で署名→市に提出。
※森林経営計画がない場合、切捨•搬出間伐•作業道開設に補助金はつきません。
※保安林は植栽義務があるので、森林経営計画がない場合、植林に補助金はつきません。

事務の技術を身につけると、山の制度•法律に詳しくなります。
裏方の新人は日常業務で実践!
就業•転職希望者はイメージ!
林業の関係者は裏方を利用!また自ら実践!

林業、裏方、森林の事をもっと詳しく知りたい方はこちら⬇︎

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