- 「山ってどういう構造で山なの?」
- 「自分の山は今どんな状態?」
- 「山の木の何を調べるんだろう?」
- 「山に入ったのに必要な立木情報を取って来れなかった!」
じつは、林業には森林調査(立木調査)の仕事があります。なぜなら、立木調査を行わなければ、「山が今どういう状態なのか」、「どういう作業を行うべきか」が分からないからです。
私は林業の裏方(営業•森林調査•設計•管理•事務)に17年程度携わっており、国内4箇所の林業事業体で立木調査をしてきた。ここでは私が見たもののみを書くので、あくまで全体の一部であることをご容赦願いたい。
この記事では、林業における森林調査(立木調査)の仕事について解説しており、自ら実践することによって、最終的に林分の分布状況、林分ごとの立木データ、施業内容の明確化を獲得できるようになることを目的にしています。
林業の裏方の新人
(森林施業プランナー•事務方•森林調査員等)
日常業務で実践できる。または参考になる。
林業への就業•転職を考えている人
仕事内容を具体的に知る事で、将来働くイメージが湧きやすい。
林業の関係者
(森林所有者、林業事業体、山の利用者等)
林業の裏方を利用できる。または自ら実践できる。
目次の、森林調査(立木調査)はどうやって行うの?は、実際に裏方業務を実践する1日を描いた物語の第4話/全10話(切捨間伐•搬出間伐•皆伐編)になっています。
林業の森林調査(立木調査)とは?
林業の裏方の最も専門性の高い仕事の1つになります。
林分(※1)ごとにプロット調査を行い森林情報を記録する!
(※1)林分とは樹種•樹齢•生育状態などがほぼ一様で、ひとつのまとまりを持った森林。(例:老齢で空いた杉林、若齢の混んだヒノキ林、広葉樹林、混交林等)
林業の裏方は現地をくまなく歩きながら、以下の仕事を行います。
- 作業候補地の中にある林分を分ける
- 林分ごとに平均的な箇所で数カ所のプロット調査を行う
- 調査結果を地図やプロット調査票へ記録
- 隣接する山の現況も目視で確認する
情報量が多ければ多いほど、作業内容が見えてきます。また、この後事務所で行う「設計」の根拠になる調査ですので、非常に重要です。
森林調査(立木調査)はどうやって行うの?
1日の仕事から立木調査に関する内容だけを抜粋して、順を追って解説していきます。
ここからは第3話目次「森林調査(境界調査)はどうやって行うの?」の続きです。
林業会社勤務の裏方(以下裏方くん)
裏方くんの部下(以下裏方ちゃん)
森林所有者のAさん(以下Aさん)
森林所有者のBさん(以下Bさん)
森林所有者のCさん(以下Cさん)
AさんBさんCさんの境界が確定。A•Bさんは森林調査許可•境界テープ巻き済み。Cさんは森林調査許可済みで境界調査済。これから立木調査を行います。
立木調査に必要な資料•山道具の準備
9/2AM8:00
用意していた資料・山道具を、一緒に立木調査を行う裏方ちゃんと確認します。
アンダーラインは必須!
すでに山で使う下記資料•山道具は持っています。
追加で準備する書類
⑦.調査票(プロット調査用)
追加で準備する山道具
10.輪尺(りんじゃく)•ダイヤメーター
11.樹高測定器(トゥルーパルス360)
12.釣竿5.65m
①.~③.は基本資料。1.~9.は基本装備(応急処置用品は必要に応じ)。⑦.調査票は仕事の効率化。10.11.12は立木調査で必須。
現地到着(立木調査のルートを計画)
9/2AM8:15
現在地の確認とルート計画を立てる
森林計画図とGPSを見ながら、なるべく全域を見れるようルートを計画します。この時、森林簿・航空写真も広げ、これから歩く山を想像しておくと仕事が早いです。あくまで資料と現地は違うという事を念頭に!
立木調査開始(林分ごとにプロット調査を行う)
9/2AM8:30
林分の調査方法
計画ルートを歩きながら、林分が変わった位置(点)を地図に記録。最終的に点と点を結び、林分の分布図を作る。
とにかく歩き回ることが重要ですが、最低でも樹種・林齢が区別できるようにならないと林分は分かりません!
プロット調査の方法
ここでは100㎡にします。大きいほど(200㎡〜)精度が上がりますが、スピード重視で、プロット数を多くしてカバーします。
ではプロット調査を始めます。
標準地を決める
対象林分が決まったら、その中で標準地(※)を探します。標準地が決まったら中心となる木にテープを巻き、地図に位置を落とします。
(※)標準地とは平均的な箇所。いくら同じ林分とはいえ「前回の手入れが弱くて木の本数の多い」、「風倒木で木の本数が少ない」、「川の付近は木が太い」、「尾根の付近は木が細い」等まばらであるのが森林です。
足場が良くて測りやすいんで、ここにしましょう!
測りやすさじゃなくて、平均的な場所を選ばないと、ここがこの林分の代表になるんだからね
立木の本数{成立本数(本/ha}を数える
林業では成立本数(1haあたりに木が何本生えているか)という言葉を、森林の密度の目安として使っています。
プロットは100㎡なので100を掛ければ成立本数になります。
釣竿5.65m(5.65m×5.65m×3.14≒100㎡)を回してプロット内(100㎡)の、立木の本数を数えます。
僕が中心の木に立って、釣竿を回すよ
私は釣竿が当たった木にチョークで番号を印します
調査票の記入は僕がやるから…じゃ1本目は…
樹種を調べる
プロット内(100㎡)の、立木の種類を調べます。
地域にもよりますが、林業ではスギ・ヒノキを扱うことが多いです。見分け方は葉っぱを見るのが分かりやすいです。幹はスギが茶色で、ヒノキはやや赤みがあります。樹皮の剥がれ具合もやや違いがあります。
1本目の樹種を教えて?
葉っぱが尖ってないからヒノキ!
胸高直径を測る
プロット内(100㎡)の、立木の太さを測ります。
林業で立木の太さを測るとき、斜面の上側に立って、胸(1.2m)の位置で輪尺(りんじゃく)を使って測ります。直径が40cmを超えてくると輪尺で挟めないので、ダイヤメーターというメジャーを木に巻き付けて使います。
1本目の胸高直径は?
26cmです
輪尺が傾いてるから水平に!
24cmでした
木の良し悪しを調べる
プロット内(100㎡)の立木の曲がり•傷•割れ•腐り•今後の成長具合を調べランク分けします。
これらは木材の価格•伐る木に関係しますので特に重要です。
曲がり
製材用のA材(直)、合板用のB材(小曲がり)、木材チップのC材(大曲がり)のように品質や用途によって分類されています。
傷•割れ•腐り
対象部分はC材になります。ある程度外見でも判断できますが、分かりづらいものもあります。例えば風の強い地域だと、樹皮にうっすら縦の線が入っており、中が折れていることもあります。中が腐っている場合は、硬いもので叩いて音で判断することもできます。中に空洞ができていると少し響きます。
今後の成長具合
ほぼC材になります。木のてっぺんや樹皮を見ます。てっぺんが隣接木の枝の下にあれば、いずれ枯れます。そういう木は樹皮がぺたんとしてます。逆に元気な木は手でむしれるくらい樹皮が浮き上がってます。
いずれにしても、木材の価格は伐ってみないと分からないのが正直な話です。
1本目のランクは?
ほぼ真直ぐだからAです
しっかり木に顔を近づけて上を見てみて!
よく見るとほんの少し途中で曲がっていってるな…Bです!
ここまでやると2本目の木に移り、同じ事を繰り返しながら、釣竿が1周回ると本数が決まり、成立本数•樹種•胸高直径•木の良し悪しのデータが揃います。
ここからは1人でできますので裏方ちゃんが樹高を測り、裏方くんは林齢と下草状況を調べプロットの写真を撮ります。
樹高を測る
プロット内(100㎡)の、木の高さを測ります。
樹高測定器トゥルーパルス360はレーザーを使って高さを測るので、障害物が無く木の根本からてっぺんまで見える位置を探して測定します。
林齢を調べる
プロット内(100㎡)の、木の年齢を調べます。
正確な林齢は木を伐って切り株の年輪を数えるか、植栽した年度を森林所有者に聞く以外ありません。
どっちも現実味がないので、経験者は目視で30年生、50年生のように大まかに判断します。初心者は林分収穫表(林分材積表•収穫予想表等)(※)を目安にして判断しましょう。
(※)林齢ごとに平均樹高、平均直径、本数、材積の基準値を、一部都道府県がネット上で掲載しています。すなわち立木を測れば大体の林齢が分かります。
下草状況を調べる
プロット周辺の、立木以外の草•低木の状況を調べます。
下草は作業のしやすさと共に、林内の明るさや土壌の健康を表します。
疎、やや疎、中、やや密、密などで表します。
疎は林内に明るく、下草•低木が繁茂し、健康的です。
密は林内が暗く、下草•低木がほぼ無く、土砂災害等の危険があります。
写真を撮る
カメラでプロット位置を2箇所程度撮っておきます。何ヵ所もプロット調査を行うと、どこがどれだか分からなくなるので、後で山をイメージするときに役に立ちます。
このプロット調査の結果
いろいろ書きましたが、経験を積むと道具を使わずに、目視で近い数字に持っていくことができるようになります。
立木調査完了(林分ごとのプロット調査の結果から作業内容が見えた)
9/2AM12:00
午前中の結果はこんな感じになりました。
Aさんのプロット1以外をだいぶ端折りましたが、AさんBさんCさんのプロット調査と林分調査が終わりました。
ここまで終わると「作業内容」が見えてきます。
林分の分布状況が地図上で分かる。
調査票から林分ごとの立木データが分かる。
立木データの取得位置が地図上で分かる。
作業内容(※)が大まかだが分かる。
(※)裏方くんの私見では、Aさんは成熟のスギ・ヒノキで、胸高直径•樹高も正常だが、密度はやや密で林内は薄暗く、曲がり木もあるので搬出間伐。Bさんは若齢のヒノキで、樹高は良いが、胸高直径はやや小さく、密度は密で林内は暗いので要切捨間伐、Cさんは老齢のスギで、胸高直径•樹高•密度ともに要皆伐。
午後からは、道と地形の調査を行い「作業方法」すなわち搬出間伐・切捨間伐・皆伐が可能かどうかを検討して行きます。
物語として読みたい、実践のみ知りたい方は第5話目次「森林調査(道と地形)はどうやって行うの?」に飛んでください。
まとめ
立木調査の実践はご理解いただけたしょうか?冒頭の質問に答えます。
・「山ってどういう構造で山なの?」
山には同じような見た目の樹木の集団「林分」があり、それらが集まって山が構成されてます。そして「林分」の中でも、違う種類の木が生えていたり、木の年齢、高さ、太さ、本数密度、木の良し悪し等が違います。
・「自分の山は今どんな状態?」
林業には森林調査(立木調査)の仕事があり、「山が今どういう状態で、どういう作業を行うべきか」を調べるために、林分ごとにプロット調査•毎木調査を行い、立木の情報を記録します。山の林分構造、林分ごとの立木の状態、必要な作業内容が気になる方は、林業の裏方に相談してみることをお勧めします。
・「山の木の何を調べるんだろう?」
・「山に入ったのに必要な立木情報を取って来れなかった!」
立木調査前
必要な資料•山道具を準備
森林計画図、森林簿、航空写真、調査票(プロット調査用)
山の服装、携帯、水筒、応急処置用品、刃物(ナタ、ノコ)、カラーテープ2~4色、文房具(シャーペン、色ペン、マジック)、GPS、カメラ、輪尺•ダイヤメーター、樹高測定器、釣竿5.65m
現地到着
現在地の確認、立木調査のルート計画
立木調査開始
林分の調査!
計画ルートを歩きながら、林分が変わった位置(点)を地図に記録。最終的に点と点を結び、林分の分布図を作る。
対象林分を決めたらプロット調査
1.標準地を決める
2.立木の本数{成立本数(本/ha}を数える
3.樹種を調べる
4.胸高直径を測る
5.木の良し悪しを調べる
6.樹高を測る
7.林齢を調べる
8.下草状況を調べる
9.写真を撮る
立木調査完了
調査結果のまとめ
地図に林分の分布が示されているか。
林分ごとの調査票(プロット調査用)が完成しているか。
地図にプロットの位置が示されているか。
作業内容が大まかでよいが見えているか。
立木調査の技術を身につけると、木を見て森が分かるようになります。
裏方の新人は日常業務で実践!
就業•転職希望者はイメージ!
林業の関係者は裏方を利用!また自ら実践!
続き(第5話)はこちら⬇︎
林業、裏方、森林の事をもっと詳しく知りたい方はこちら⬇︎
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